今回は「ポージングが及ぼす体への悪影響」について解説します。
「ポージング」とは、ボディコンテストで審査されるポーズ姿勢ですが、癖付くことで筋トレ中の怪我のリスクを高めることになります。
具体的には、
・肩の怪我をしやすくなる
・慢性腰痛の原因になる
・根本的な姿勢が悪くなる
などの怪我や不調が見られ、ほとんどの場合が無意識で癖付き、”まさかそれが原因で怪我をしていた”とは気付かないと思います。
特にSNSでもよく見られる
・男性のフロントポーズ、バックポーズ(前編)
・女性の殿部を強調するポーズ(後編)
の悪影響について解剖学の視点から解説します。
※筆者は競技者ではないので、ポージング表現に誤りがあればご指摘ください。
ポージングと肩の怪我
まずはフロントポーズと立位姿勢を比較します。
フロントポーズは、広背筋など背中の筋を正面から見せるために「肩の内旋+肩甲骨の外転」の姿勢を取ります。
これは「巻き肩」と呼ばれ、最も肩を痛めやすい姿勢の1つです。
審査中だけのポージングでは影響ありませんが、歩いている時、電車を待っているときなどもポージングを意識していないでしょうか?
特に「リラックスして立っているのに脇が開いている」これはかなり危険です。
このように「日常生活でもポージングが癖」になっている人が多く、ボディコンテストは”競技”なのでポージングは必須ですが、理想的な良い姿勢とポージング姿勢は全くかけ離れているという認識が大事です。
それらを踏まえた上で、どのような体の変化が起きているのかを解説します。
肩関節の動き
肩を動かす際には”肩甲骨と上腕骨がセットで動くこと”を「肩甲上腕リズム」と言います。
肩甲上腕リズムが上手く働くためには最低でも2つの条件があり、
(1)上腕骨と肩甲骨の位置関係
(2)肩を動かす筋のバランス
この2つの要素がとても重要で、どちらか一方が崩れた場合に怪我が起きます。
上腕骨と肩甲骨の位置関係
まずは肩甲骨の正常な位置を確認します。
肩甲骨は胸郭に張り付くように付着し、上角はT2(第2胸椎)下角はT7(第7胸椎)が目安で、内側縁は脊柱にほぼ平行で約7〜8cm(指4本分)の位置にあります。
上から見ると前方に30°回旋し、この面のことを「肩甲骨面」と呼びます。
※肩甲骨面状は、肩が最も安定して動きやすい
では正常な肩甲骨の位置とポージングを比較してみます。
ポージング姿勢は、肩甲骨が「外転」して脊柱から8cm以上離れ、前方の回旋も30°以上になります。
※肩甲骨の外転は胸郭を滑るように動く
横から見ると「巻き肩」になり、
この姿勢での問題点は「肩甲骨の関節窩が前面を向くため、正常な肩甲上腕リズムで肩が動かせない」状態です。
上腕骨の位置
次に上腕骨の位置を調べます。
正面から見ると手のひらが体側に向き、肘窩(肘のくぼみ)がほぼ正面を向いているのが正常です。
側面では、耳の後ろと肩峰がまっすぐで肩関節が二分されます。
ポージング姿勢は手のひらが後ろを向き、肘窩も体方向へ向いています。
この肢位は「肩関節内旋」で起こるので、一度リラックスした状態と比較して鏡で確認してみてください。
話は肩関節の運動に戻りますが、正常な肩を挙げる動きは「肩関節の外旋」を伴い、その理由は「烏口肩峰アーチ」との接触(インピンジメント)を避けるためです。
ポージングのような「肩内旋」が癖付くとインピンジメントが起きやすく、正常な運動に近付けるには”通常より大きく外旋”させる必要があるので、肩の外旋筋群の負担も大きくなります。
小指上向きサイドレイズ、アップライトロウのような「肩内旋」のトレーニングで痛みが出やすいのは上記の理由と同じです。
筋のバランス
「筋のバランス」と聞くと、インナー(回旋筋腱板)とアウター(三角筋)のイメージが湧くと思いますが、実際には「回旋筋腱板+三角筋+肩甲骨周囲筋」少なくとも3つの要素が関与します。
これらの筋が「協調して働く=バランスが良い」と言えますが、上記の「肩内旋癖によって外旋筋群の負担が大きくなる」などは”協調を乱す”要因となります。
”普段からインナーも僧帽筋も鍛えている”
という意見もあると思いますが、「筋肉を鍛えること」と「筋肉が正しく機能するか」は全く別なので注意が必要です。
肩の筋の協調性「フォースカップル作用」については、こちらの動画で解説しています。
【フォースカップル】肩のインナーマッスルを鍛えるべき理由と痛みの関係【肩関節の勉強】 - YouTube
肩の怪我を防ぐには?
ここまで肩の怪我に繋がる「肩甲骨の外転と上腕骨内旋」について解説しましたが、怪我を防ぐには3つの要素が必要です。
①日常からポージング姿勢をやめる
②姿勢不良を起こさないよう体のケアをする
③解剖学など知識を付ける
だと思います。
①に関しては、トレーニング1セット終わる毎に鏡を見ている方は要注意です。
それだけで癖が付きやすくなります。
②詳細は触れませんでしたが、例えば「上腕骨を内旋させる筋は何があるか?」と考えると、大胸筋、広背筋、大円筋などが挙げられます。
ポージングをするということは、これらの筋を持続収縮させるので拘縮が起きやすくなります。
なので、拘縮を起こさないようストレッチをするなど、姿勢不良や筋バランスの乱れが起きない工夫が大切です。
ただこれには「③解剖学の知識」も最低限必要になるので、「筋トレの方法だけではなく、体の機能についても勉強をする」ことが、怪我をせずトレーニングと競技を長く続けられる秘訣かなと思います。
体の機能と解剖学の勉強動画も再生リストにまとめているので、少しずつ一緒に勉強していきましょう。
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ポージングと肩の怪我 まとめ
以上がポージングと肩の怪我の関係性になります。
冒頭でも言いましたが、「理想的な良い姿勢とポージング姿勢は全くかけ離れている」という認識があるだけで、今後の怪我をかなり減らせると思います。
今回は「肩内旋+肩甲骨外転」で起こるインピンジメントに注目しましたが、
・腱板断裂
・肩鎖関節炎
・上腕二頭筋長頭腱炎
などなど、その他の肩の怪我も起こりやすくなります。
医療現場での経験から、肩の怪我は「原因がわかりにくい+治りにくい+再発しやすい」といった特徴があるので、大会出場やポージングの批判をしたい訳ではなく、体に起こる変化を知り、予防に務めることが大事と考えています。
予防方法は下記動画を参考にして頂ければと思います。
次回は女性のポージング「殿部の強調と腰痛の関係性」について解説します。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!