今回は「立甲(肩甲骨はがし)」について、「肩甲骨はがし」や「立甲」の危険性について、柔道整復師の目線で解説します。
最近のYou Tubeでは、
「肩こり改善には肩甲骨はがし!」
「スポーツのパフォーマンスを上げるには立甲をやれ!」
などのサムネやタイトルを見ますが、全員が出来る(やる)必要は無いと考えています。
立甲(左)と肩甲骨はがし(右) イメージ画像
画像引用:ドラゴンへの道
逆にこれらを繰り返し行うことが、肩の不安定性を招いたり、怪我の原因になる可能性があります。
その理由を
①立甲の矛盾と肩関節の構造
②肩の安定性に本当に必要なこと
③肩の怪我を減らすためにやるべきこと
などのテーマから見ていきます。
立甲とゼロポジションの関係
立甲は「四足歩行の動物が歩いているときに肩甲骨が立っていること」などの意味を表します。
※チーターなどの動物のイメージ
立甲が出来ることのメリットが、「肩を前に出した(前ならえ)状態でゼロポジションを取れる」といった意見があります。
ゼロポジションとは、
「肩関節に最も負担の少ない位置で、解剖学的に見ると”肩甲棘と上腕骨軸が一致”している状態」となります。
※肩関節を肩甲骨面上で挙上した130°〜150辺り(個人差あり)
簡単な目安としては、後頭部で手を組み、肘だけ伸ばした位置がゼロポジションの目安となります。
上の画像は、肩を挙げて肩甲骨の背面が見えた状態ですが、立甲をすることで「肩甲骨の内側が浮き上がり、腕を前に出した状態でゼロポジションを作る」ことが出来ます。
ですが、この動きが本当に肩関節にとって良いのか?という点から考えると少し矛盾があるので、次に「肩の安定性に必要な筋と立甲の矛盾」を見ます。
立甲の矛盾と肩関節の構造
立甲の定義を改めて見てみると、
「四足歩行の動物が歩いているときに肩甲骨が立っていること」ですが、そもそも人間は四足歩行ではありませんし、比較するものでも無いと思います。
そして、四足歩行の動物の多くが「菱形筋が無い」と言われていて、菱形筋は「肩甲胸郭関節を安定させる(肩甲骨内側が浮かないように支持する)」役割を持ちます。
四足歩行の動物が立甲状態で歩くことは当然ですが、人間がその真似をするのは根本的な構造から違うので、正しいとは考えくいと思います。
そして、人間にある肩甲胸郭関節は、「肩甲骨+胸郭」で関節を構成していて、肩甲骨は関節面を滑るように動きます。
つまり「肩関節の運動の土台」となる場所なので、肩甲胸郭関節が安定して初めて、肩の自由な運動が可能になります。
その土台を支えているのは「菱形筋・前鋸筋・僧帽筋」といった筋肉の働きが重要です。
ですが立甲は、「肩甲骨の内側が浮いている状態」で、肩甲骨の内側が浮くということは、「前鋸筋や菱形筋がうまく働いていない」とも言えます。
つまり、肩甲胸郭関節が関節の構造から破綻している形となります。
このように、本来の肩関節の運動の土台となる関節が破綻してまで「前ならえの状態でのセロポジション」を獲得する意味があるのか?というと、個人的には必要ではないと思っています。
僕自身が沢山の怪我を見てきた結果、まず立甲ではなく、
・正常な関節可動域まで動かせる柔軟性
・肩甲胸郭関節を安定させるトレーニング
・肩関節のローテータカフの強化
これらの3つの要素が「肩の怪我を減らすためにやるべきこと」だと考えています。
それらの方法は下記動画で解説しているので、ご覧下さい。
①【解剖学】筋トレを深く理解するために知る関節の動き【上半身編】
②【解剖学】筋トレを深く理解するために知っておくべき関節の動き【下半身編】
③【関節唇損傷】肩の痛みやゴリゴリ音がいつまでも治らない原因と改善方法【トレーニング】
④【フェイスプル】筋トレで肩の怪我をしたくない方向けのトレーニングと解剖学的解説【インナーマッスル】
立甲(肩甲骨はがし) まとめ
以上が立甲についての個人的な意見となります。
記事内では立甲のデメリットについて書きましたが、肩甲骨の動きを良くする努力や、脊柱の動きがよくなるのは良いことです。
そのために必要なことは「ゼロポジションを無理やり作る」ことではなく、筋や関節の柔軟性を正常可動域まで出すことが重要です。
方法はシンプルで、ストレッチやフォームローラーを使用するだけでも高い効果を得ることができます。
僕が普段から行っている柔軟性を上げるためのウォーミングアップとその意味についても解説しているので、よければご覧下さい。